こんにちは!蔵人ライターのモリカワです!
まだまだ寒いこの時期は、暖かいお湯割りで日々の晩酌もはかどります。
少しでも晩酌を楽しむために、飲み方やアテを工夫しているのですが、それだけでは飽き足らず、お酒を飲む酒器にもこだわりたいと目論んでいる今日この頃。
そう。今回のテーマは「酒器」です!
なんでも焼酎文化が古くから根付く鹿児島には、独特の酒器「黒千代香(くろじょか)」と「そらきゅう」なるものがあるそうですよ。
これは海童をより一層おいしく味わうためにも押さえておきたいポイントですね。
そこで、濵田酒造コミュニケーション部の平石智也さんにご協力いただき、鹿児島を代表する酒器の特徴や実態などについてお話を伺いました。
薩摩焼の「白もん」「黒もん」って?
まずは鹿児島の酒器の基礎をおさえておきましょう。
そもそも鹿児島では地元の窯で焼かれる薩摩焼と呼ばれる陶磁器が昔から親しまれてきました。薩摩焼は、今から約420年前、豊臣秀吉の命で島津家第17代太守の島津義弘公が朝鮮半島へ出兵された際、薩摩で焼き物を作るために現地の陶工を引き連れて帰ってきたことから始まったとされています。そんな歴史背景から生まれた薩摩焼は「白薩摩」「黒薩摩」と呼ばれる2種類に分類されるのが大きな特徴だそうです。
「『白薩摩』『黒薩摩』は、それぞれ『白もん』『黒もん』とも呼ばれ、『白もん』はその名の通り白く、豪華絢爛な装飾を施した特別な焼き物です。その昔は身分の高い方々(上質なものは藩主専用)が用いる器として生産され、1867年に開催されたパリ万博では、美術品や調度品として出品され、高い評価を得たそうです。逆に『黒もん』は、大衆向けの生活雑器として鹿児島の人々の日常に馴染んできた焼き物なのです」(平石さん)。
彫文ぐい呑み(白薩摩)※「荒木陶窯」提供
黒釉 カップ(黒薩摩)※「荒木陶窯」提供
「白薩摩」は繊細で細かい装飾が見どころである一方、鉄分が多い土を高温で焼き締めて作る「黒薩摩」は、素朴で頑丈な仕上がりが魅力。どちらも古くから鹿児島で愛されてきた焼き物なんですね。
「今、私が使っている器は、美山(鹿児島県日置市)に窯を置く『荒木陶窯』さんの酒器です。『荒木陶窯』さんといえば、海童のふるさと「いちき串木野」の島平地区に上陸した渡来陶工の朴家の末裔です。荒木窯特有の天然釉薬を使った、色鮮やかな緑色のそば釉や黒釉の絶妙な風合いがなんとも味わい深い焼き物です。私は、楽しげな人柄が入った荒木陶窯さんならではのちょっと変わった酒器を使って、海童での晩酌を楽しんでいます。今の季節はやっぱり『海童 春雲紫』!陶器の優しい肌触りがお湯割りを包み込む、薩摩焼ならではの飲み心地がたまりません」(平石さん)
「黒千代香」「そらきゅう」ってどんな酒器なの?
その薩摩焼に「黒千代香」や「そらきゅう」などの独特の酒器があるんですね。
黒千代香
「『黒千代香』というのは、黒い土瓶のような形をしたもので、前割りで燗をつけるための伝統的な酒器です。今では鹿児島の家庭に普通にあるものではないのですが、昔ながらの焼酎文化を楽しむような飲食店などでは使われています。また『そらきゅう』というのは器の底が平ではなく、独楽のような円錐形をしているかなり特殊な酒器で、底に穴があいているものもあります。器が自立しない分、常に手に持っておかなければいけないので、『そら!きゅうっといけ!』と注がれたお酒をきゅっと飲んで楽しむために生まれた酒器だそうです」(平石さん)
自前のそらきゅうを紹介してくれた平石さん。そしてこの独特な酒器たちは、鹿児島ならではの“おもてなし文化”から生まれたのではないかとのこと。
どういうことなんでしょう??
鹿児島のおもてなし文化と酒器の関係
「鹿児島には、『お茶でも一杯飲んでいきなさい』という意味の『茶いっぺ』という文化が今も根付いています。お茶と言いつつ焼酎を出されることも結構多いんですけど(笑)。そして、私が子供の頃などは、夕方が近づいてくると、そうそうに仕事の手を止めて焼酎で乾杯するという光景をよく見かけました。鹿児島では方言で『だいやめ』と言いますが、仕事を終えてお酒で疲れを癒して、明日もがんばりましょうという晩酌文化があるんです。ちなみに、明治時代の頃、県外から鹿児島に転勤できた学校の先生の日記には、着任を祝って地域の人が集まり、急須のような器に入ったお酒をどんどん飲まされる、と記述された記録が残っているそうですよ」(平石さん)
その先生は日記に書くほど驚いたのでしょうね(笑)。
昨年7月の記事で紹介したのですが、500年前の日本最古の「焼酎」の記載が見つかった木片(郡山八幡神社(鹿児島県伊佐市)で発見された)に「工事の時、施主が大変ケチだったので一度も焼酎を振る舞ってくれなかった、とてもがっかりした」という記述があったのを思い出しました。訪問先での振る舞いや仕事終わりのだいやめなど、焼酎でもてなす文化は500年も前から鹿児島で脈々と受け継がれてきたものなのかもしれませんね。そうした場で黒千代香やそらきゅうも使われていたそうですよ。
「明治時代の中頃までは、まだ黒麹や白麹などの麹菌はなく、黄麹と呼ばれる日本酒に使われる麹菌を使っていたので、アルコール度数の低い焼酎しか作れなかったんじゃないかとも言われています。だから、当時はお湯割りではなく、すぐに飲めるように黒千代香のような器にそのまま焼酎を入れて、清酒の燗酒のように温めて飲んでいたようなんです。そらきゅうも美味しい焼酎をたくさん飲んでほしいというおもてなしの場で使われていたのではないでしょうか」(平石さん)
今でこそ、焼酎のお湯割りは一般的なので、割らずに飲んでいたかもしれないという話は意外ですね。こだわっておもてなしをする際は、前日に焼酎と水で割ったものを黒千代香に注ぎ、弱火に当てて保温しながら晩酌されるんですよね。今では、直火が出来ない黒千代香も多くあるので、そのまま火にかけて温めていたということは、黒千代香自体が今よりも頑丈な作りだったのかもしれませんね。
「黒千代香は、『黒』とあるように、庶民が使っていた『くろもん』の器。土瓶や急須のように日常生活の中で用いられていたそうです。独特の平らな形状は桜島をモチーフにしているともいわれます。いまでは、工芸品として愛でる使い方も増えてきているので、購入される際は用途に応じて選んだほうがいいですね」(平石さん)
現在はガラス製の湯割りグラスはもちろん、耐熱性のタンブラーなどの保温性に優れたものもたくさんあるため、平石さん自身もいろんな酒器で晩酌を楽しんでいるそうです。
「伝統的なものから機能的なものまで、今やお酒を飲む器は多様化していまが『焼酎を飲む』という文化は普遍だと思います。私もそうでしたが子供の頃、大人たちが飲む焼酎のお湯割りを作ってみたいと駄々をこね、面白がって作ったという記憶を持っている鹿児島県人は結構いると思います。そうしていくうちにお湯割りの割合や温度などもだんだんわかってきて、『おいしい!』と言ってくれるのが嬉しいんです。これもひとつのおもてなしですよね。焼酎を通じて親子や親戚、ご近所さんとのコミュニケーションが取れるのって鹿児島らしいじゃないですか」(平石さん)
おもてなし文化なくして、鹿児島の焼酎や酒器を語ることはできないですね。
最後に平石さんからファン蔵部のみなさんへメッセージをいただきました!
「酒器には、ここで紹介した以外にもたくさんの種類があります。そして、それぞれにいろんな楽しみ方や味わい方があると思います。薩摩焼にこだわるもよし、色々と酒器を試してみて、新しいマッチングを発見するのもよし。酒器という相棒と共に、これからも海童ライフを楽しんでくださいね!」(平石さん)
平石さん、色々と興味深いお話をありがとうございました!実に面白いお話を伺って焼酎の世界がさらに広がった気がします。
今回は伝統的な酒器のお話から、鹿児島のおもてなし文化を垣間見ることができました。みなさんも、晩酌の際は酒器に注目してみるといつもの海童も一味違ったものになるかもしれませんよ!
ではまた次回の記事でお会いしましょう!
写真・文章協力:荒木陶窯(https://shop.arakitoyo.com/)